原油ETFの基本的なしくみ
2016/06/01
原油のETFは、基本的に原油の先物を買うことで作られています。話を単純にするために以下のような仮想ETFを考えてみます。
発行総額:100億円(額面1000円で発行株数が1000万株)
為替:1ドル100円
原油先物:1バレルあたり50ドル
原油先物の取引単位は1000バレルです。先物の売買数量の数え方は「枚」(まい)です。1枚の原油先物を買うということは、1000バレルの原油先物を買うことを意味します。5枚なら5000バレル分です。
この仮想ETFを作るためには100億円分(1億ドル分)の原油先物を買います。原油先物1枚あたりの原油価格は50000ドル(50ドルx1000バレル)ですから、1億ドルを50000ドルで割ることで原油先物の保有枚数が計算できます。2000枚になりますね。さて、ここで原油が55ドルに上昇したとすると、保有している原油先物の価額は55ドル/バレル×1000バレルx2000枚=1.1億ドルになります。さらに、為替が1ドル105円になったとすると、1.1億ドルx105円/ドル=115億5000万円になりますね。1株当たりで見ると1155円になり、原油値上がり分と円安分のおかげで値上がりを享受できていることがわかります。
ここまでは言われなくても当然そういう仕組みでしょ、と皆さんが考えている話だと思います。
しかしながら、原油ETFで資産運用する場合の想定シナリオの一つとして「長期的に見れば原油価格は上昇するだろうから、今のうちにじっくり仕込んでおこう」というものがあると思います。短期売買の場合はさほど問題にならないのですが、原油ETFを長期保有する場合、先物市場特有の性質によりETFが少しずつ目減りする場合があるので注意が必要です。一般に、先物には取引期限があり、取引期限のことなる先物は全く別物として取り扱われます。2016年5月先物と2016年6月先物は別のものとして扱われる、ということです。5月の先物は「5月限」(ごがつきり)、6月の先物は「ろくがつきり」と呼ばれます。
例えば2016年5月27日のニューヨークの原油先物(WTI原油先物)の終値は、
2016年7月限 49.36ドル/バレル
2016年8月限 49.74ドル/バレル
2016年9月限 50.13ドル/バレル
のようになっていました。
ニューヨーク市場の原油先物は決済期限が短いものほど取引量が多いため、ほとんどの原油ETFにおいては、決済期限のもっとも短い先物を買い持ちしています。取引期限が来る前に、決済期限が短い原油先物を売って、一つ先の決済期限の原油先物を買いなおします(これを「限月乗り換え」(げんげつのりかえ)、「ロールオーバー」などと言います。取引期限は月によってまちまちですがWTI原油の場合は、概ね前の月の中旬頃です。ロールオーバーは取引期限ギリギリの日に一度に行われるわけではなく、もう少し前に行われます)。やっかいなことに、原油価格が低迷しているときは、期限が先の原油先物ほど値段が高いことが多い、という特徴があります(期限が先のものほど値段が高いことを「順鞘」(じゅんざや)とか、「コンタンゴ」と呼びます)。このため、7月の先物を売って8月の先物を買うと「安い値段で売って、高い値段で買い直す」ということになってしまいます。これを延々と毎月繰り返すことにより、原油ETFの価値どんどん目減りしてしまうわけです。証券会社などで原油の無料チャートを見ることができますが「期限が最も短い先物価格を繋いでいったチャート」になっていることが多いです(先物つなぎ足とか、期近つなぎ足と呼ばれます)。一見、儲かりそうに見えますが、実際には、期限が来ることに乗り換えが必要なので、乗り換え時に損をする分を考慮しなければ、実際の投資損益を反映していないことになるわけです。
先ほどの仮想ETFでは原油先物を50ドルで2000枚買い持ちしている、としましたが実際の原油価格で計算しなおしてみると、2016年7月の先物価格49.36ドルで1億ドル分を買うとすると、2026枚になります。そして2016年8月にロールオーバーすると、49.74ドルで買いなおすわけだから2010枚に減ってしまいます。総額は一緒ですが、高い価格で買いなおすわけだから、保有する原油先物の枚数が減るわけです。数量が減るので、その分、値上がり益も減るわけです。
実際にETFに投資したときに何%くらい損するかは、乗り換える原油先物の価格の比で見れば良いです。例えば49.36を49.74で割ると0.9924となるので1回の乗り換えで0.76%損するわけです。毎月、同じ割合で損するのを12ヶ月継続すると仮定すると0.9924の12乗ですから0.9125となり、1年で1割近く目減りすることがわかります。ただし決済期限の異なる原油の価格の差は毎日変動しているので、実際には、これよりも大きく減る場合もあるし、それほど減らない場合も考えられます。以上のような理由により、原油先物が順鞘のときに原油ETFを長期で買い持ちすると、ETFの仕組み上、目減りは避けられません。原油ETFを買うのであれば、原油先物の順鞘が小さくなっているときか、あるいは決済期限が短い先物ほど値段が高くなっているとき(「逆鞘」(ぎゃくざや)とか、「バックワーデション」といいます)のときが良いと思います。
原油先物ではなくて金融機関が作っている店頭スワップで組成されているETFもありますが、スワップを提供している金融機関は、原油先物でヘッジしている可能性が高いです。このためETFを買うわれわれの受ける経済的収支の点から言えば、ほぼ全てのETFは原油先物でできていると考えても差し支えないと思います。